
ページ数の本当に少ないページで本の読み慣れている人なら1時間もかからず読み終えられるものだろうと思う。
いつも時間が足りないと、時間配分が下手な私はそれでも何日か掛かってしまったが、楽しすぎて(この悲しい物語を楽しいと言ってはならないだろうけど)、文章の味?を噛み締めながらゆっくり読んだわけで、むしろ何日もかけて、グレゴールお兄ちゃんのことを思い描けて良かったと思う。
脈略もわからず提示されて、訳も回収してくれないものが、最近はとても多い_エヴァもそうだし。最近は呪術廻戦もついていけない。歳か?
現代アートもそうだし、独立映画、音楽にも、そういうものがたくさんある。大体それらは味が悪い傾向があって、ー消化できないからずっと口の中に残るので、味が悪いと感じるのか、直ぐに飲み込めない何かがそんなに嬉しいわけがない。
作品の1ページ、最初の文章「ある朝、グレゴール・ザムザが落ち着かない夢にうなされて目覚めると、自分がベッドの中で化け物じみた図体の虫ケラに姿を変えていることに気がついた。」(角川文庫 川島隆、訳)これはとてもおしゃれなものに感じる。
まるでNマークでDUDUnnnnn-ってなって10秒以内で見られるコンテンツのオープニングとして、文字その通りのそのまま映像が流れても全く違和感がない。1883年生まれの作家の作品だと、わざわざ調べないと全く気がつかないーそうね、、ブラックミラーのようなシリーズになってくれたら少なくとも私は見ると思う。
パッと思い出せる作品がありすぎて定まらないが、極めて説明不足な不親切な現代アートピースにも似ている。(大体の現代アートがそうだと言いたいではない)



何もない白いホワイトキューブなところになんの説明も情報もない状態で置かれている設置物のようなイメージ。(巨大な見たことない醜い虫というだけにだが、ここでは昆虫への差別よりもこの作品全体が持つ雰囲気と、説明不足なところが特に)
もしくは、何で出来ているか、どんな味か、美味しそうだが美味しそうでもない、高い高いファインダイニングの一品みたいな……….



[変身」あまりにも有名な作品だから、内容やメッセージのに関する情報はすでに溢れているだろう。
この作品も非常に興味深いが、作品とピッタリセットになっている訳者解説もなかなか充実している内容だった。作品と、作者へ向けられるファンダムを作るような装置のように感じられる。しかも専門家から見るこの作品の、作家の凄さはこんなもので、こんな背景で作られてて、カフカの家族、友人、恋人まで、まるでウィバースでBTSの情報を仕入れられるほどのオタク的な熱量と情報量である。


インパクトと強い問いを残すショート作品と、ファンダムへ導く案内書の組み合わせ(資本主義が本格化する時代にユダヤ人の動きと社会との関係について詳しく学べる歴史背景に関する知識付き。もはや付録。)しかも全て合わせて174p。価格ワンコイン。
最強すぎる。
グレゴールお兄ちゃん。働けなくなって退職した老人のメタファーなのか、家族を家族と言える基準と境界線は何なのか。労働の意味についてか、人間と非人間の境界か、今でも解決できない疑問は100年前でも同じだったのね。たくさん疑問を残して、静かに行ってしった。
後ろの解説の部分に、作家と他人の人間関係についてたっぷり説明があるがすごく印象的である。本人が考えているほど、言っているほど、父は彼に対して威圧的ではなく、母と父の関係において母も彼のいうところとはかなり違っていたとか。それっぽい作家像を作り上げるために要するにイメージ管理しているといったところ。
家族や人間関係をあくまでも素材としているところ。
これは作家あるあるなのか。私の狭い偏見ではこれが作家という種族の特徴なのか。
それともたまたまこのような人もいたのか、分からないが、ちょっとした同一族のような性格上の一面を感じる。
とはいえ=素材の出所がわかったとは言え、今の時代でもこうやって文学と関連性の遠い私の手にも届くほど世に知られる作家となって、このくらい小さい文字数でこれほど大きいインパクトを残せるものだ。
彼の人生と彼の周りの人間がどれほど幸せだったかはともかく。
作品が残る意味のありがたいさと凄さをもう一度感じる。
2026.1
