読むこと考えること

養老孟司


最近なかなか本を読む気力がなかった。
読めない時には無理して読まない。辛うじて寝る寸前携帯いじりをそこそこにして本を手にしては、5分以内で寝落ちる。ちまちまと進んで、いつの間にか読んでしまった本が養老さんの小説エッセイであった。
寝る直前の自分の脱力状態は、養老さんの揺らぎが殆どない池のように静かな声を、何も気難しくないく、何の力もいらないままダラダラと読むにはむしろいい姿勢だったのかもしれない。そのまま時々様々に降りてくるトピックについて静かに考える。

例えばブータンへ行ってみたい。
ブータンは旅行慣れしていない初心者にはそう簡単な国ではないはずだけど。
養老さんは虫でとても楽しそうなので、その楽しさが分からない自分は何か損しているような気持ちになるけれど、虫採りでなくても、全く違って、何処ともなく似ているというそこに行ってみたい。雑念が多ければ多いほど、何も考えずいられる。といより、考えていたことを一つ一つ下ろしに行くにもとても良さそうな印象をこの本から受け取る。

養老さんのことを知れたのは、なんの事前情報無しに「バカの壁」というタイトルに好奇心が湧き、手に取ったのがきっかけだったと記憶している。
今思い出そうとしても、具体的な内容は殆ど思い出せないが、「〜〜の壁」シリーズはその後も何冊が読んだので、内容というより、養老さんの印象だけが残っている気がする不良な読者だ。例えば、文章から漂う隠せないツンデレ感。
長いこと若者と接してきたから、若い人の愚かさなんて、嫌になるほどご存知で(多分)、若いのはこうだから、日本人はこうだから、と怒りなのである。「もうー嫌になる、仕方がない」とステ台詞のようにいうけれど、その中には深い自国に対する理解と愛情を感じる。
本を読む読者にだって「わかる人がいればの話だが、とか、こんな問題を考える人はそうおるまい」と終わる章が多い。うーん。タメになることたくさん書いておいて。やはりツンデレだと思います。
だから、00の壁シリーズを含めて大体の養老さんの本は。読んで考えさせられる、ぶつぶつ集だと勝手に解釈している。

なんだろう、全く力を込めなくても、読める、理解できる、共感できる、どんな話題でもそれがアメリカの政治問題や、紛争、戦争、歴史の話だとしても、ストレスや、受け取る側としての緊張度0で得られる情報。すんなり入ってくる価値観。
疲れ切った時に丁度いい温度のお風呂に入るような,,
Camille Henrotの自然体で作られ自然体で鑑賞できるドロイングのような感じがある。
生活の中で拾える経験がベースになっているので、無理に何処から引っ張って、特定の所に入れる必要のない自然体が養老さんの文体でも滲み出る。日常の入り口から鋭い洞察力を放つ彼女の作品と養老さんの書く本の入り口とで出口がとても似ている。
普通、大人が非大人(?)にこれだけの情報を与える目的があった場合、受け取る非大人な方は必ずと言って良いほどある程度のストレスを感じるものだと思うんだけれども。
あのツンデレ感は、聞く人だけ聞けば良いという、受け取り側の義務を0にする設定なのかも知れない。

図1 Camille Henrot, 《Pity Should Begin at Home》, 2016.

もう一つ思うのは養老さんのお話はどんな所から始まっても、結局は自然に帰着していると感じる時がある。自然そのものや人の体の自然な流れとかに。
それが情報過剰な現社会の中で疲労している人に、優しいワセリンのように気いている気がする。

何かと自分の考えたことを形にして可視化していることを一生懸命考えていると、一瞬で目に入るような、好奇心を刺激するような、時には目的もない刺激そのものを肥大化させる方法に目的がずれてしまうことがある。もっと伝えたい、共感を得たい、見てほしい欲求がそのままモノに出ると、これはこの本全体として反対の立場にある存在になるに違いない。そして、それは壁になって逆に届きにくいモノになるんだろう。

価値観や思考の目標や着地点を自然にフォーカスして進めるのは如何に難しいものか。
大体自然について分からなすぎる。
自然という言葉はもはや抽象的だとさえ感じる。その中に住んでいて、囲まれているはずなのに。

本の中に昔から伝わる山の木材を切る切り方など思い出す。
山が禿げないために、最初から計画的にそうしてきたとは思えない。切り倒す対象への感謝と労わる心があって自然に出てくる行動の結果が、豊かな緑のたくさん残る今の自然を保たせているのではないかと思う。養老さんはそれを今はなぜか英語でサスティナブルと言う。と不満げに伝えてくれた。
今の人は計画できるシステムもなるし、技術があっても感謝の気持ちや次世代のことは考える余裕がない。
だからわざとらしく、敢えて、サスティナブルのこと、と定めて暗黙の義務化をせざるを得ないのかも知れない。

今回の本には、たくさんの本のおすすめがあってとても嬉しい。
読めば読むほど、知らないことが多すぎる自分の現状が発覚されて唖然とするけれど,,,
養老さんがピックアップした本の理由がそれぞれ楽しく書かれている。
何となく興味があって普段の疑問に紐づいてくる本は、読んでみたい。養老さんお墨付きのファンタジー小説でも大歓迎。きっとNetflixより心に残るに違いない。
そして子育てがある程度終わる来るべきその日のために、地球の歩き方ブータン編も買っておこう。

              3300円!!(@_@)

2026年7月24日

aira